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ドラマCD記念――サイトウケンジ、涼香『101番目の百物語』の感想

※ネタバレにご注意ください

 

ステマチック

サイトウケンジ、涼香『101番目の百物語』(2010) の1巻を読みました。

冒頭の「章前・語り部の言葉」で説明されるように、都市伝説とフォークロアを題材にした作品です。加えてあとがきで作者が「主人公のモンジがハーレムを作るお話」と明言しています。まとめると都市伝説・フォークロアを題材にしながら、主人公がハーレムを形成していく話であると、作品の方向性がはっきりしています。

文章も相当に明瞭で、読んでいてHTMLやCSSが透けてくるかのようなシステマチックな印象があり、作者の出身であるノベルスゲーム畑の文章の影響が過分にあるのかなと、ド素人は勝手な想像をしています。HTMLやCSSは、作者サイトウケンジがゲームのシナリオライターなので出したいい加減な用語ですが、そういったHTMLやCSS的な要素を見せたくない作家もいるなかで、結構おおっぴらに (多分あえて) 見せている印象がありました。

ただ、それはすべてを把握できる万能ツールではなくて、方向性やキャラクターを明瞭にするためのものなのかな。仮にHTMLやCSSを完全に把握したところで、「作者の意図」がわかるわけじゃありません。だから、方向性やキャラクター描写は明瞭でも、その他は全体のバランスの兼ね合いなのか説明が省かれていたり、よくわからなかったりする個所がありました。……このたとえは無理があるので今後は使いません。多分。

 

ハーレムはフォークロア

内容は、主人公の一文字隼人が『Dフォン』という、都市伝説上の妖怪 (この作品では「ロア」と言うらしい) や怪奇現象とつながりを持ってしまうケータイを押し付けられた主人公が、自らも都市伝説上の存在になっていく (1巻時点ではまだ予定) 話です。そのロアが、ヒロインたちです。主人公が都市伝説なら、ヒロインも都市伝説という。ハーレムはフォークロアです。

『Dフォン』はホラーや説話で言うところの呪いや因縁に当たるのでしょう。ただ、それはハーレム主人公、本文で言うところの「百物語の主人公」になるという、ラブコメディな呪いのようです。恐怖を煽ろうと思えばもっと煽る材料はある一方で、ホラーやサスペンスはこの作品の方向性ではないようです。たとえば主人公が殺されそうになる場面がいくつかありますが、その過程で人物同士が冗語的な掛け合いをするなど、基本的にはゆるい空気が流れている印象です。

主人公がフォークロアなので、説話 (噂) を語る語り部が必要、というわけで小説の前後に語り部が配置されています。そのため、作品構造がちょっとした枠物語になっています。民族説話 (都市伝説) は口承 (噂) のなかのものですから、当人たちが「自分、都市伝説です」なんて訳にはいかないのでしょう。

 

「よくお勉強しましたね」

単に民俗学の話をするのであればいくらでもディープに出来るのだろうけど、あんまりやりすぎると「よくお勉強しましたね」と冷ややかな目で見られる可能性があります。その上でハーレムという展開に持っていこうとしたら、おそらく材料負けするでしょう。作者は材料同士を何回か綱引きさせて、バランスを見ていたんじゃないでしょうか。

 

ドラマCD

肝心なことを書いていませんでした。イラストがいいです。あと、はっきりとした作品の方向性に登場人物がやや引っ張られているような印象もありました。単にわたしがキャラの魅力をわかっていないだけかもしれませんし、そもそもその印象自体、作者が用意した矢印に乗っかっているから思うことなのかもしれません。わたしは仁藤キリカが良いと思いました。

既に完結している作品ですが、新しくドラマCDが出るようです。前からのファンにはいいニュースじゃないですか。

 

章の構成 ※横の( ~ )内の数字は該当ページ

章前・語り部の言葉

「2010-??-??T??・?? ·?? “???”」 (11~15) 

第一話:〝呪言人形〟のロア 前編

「2010-05-11T17:30:00 “Yagasumi City”」(16~20)

「2010-05-10T08:30:00 “Yasaka High School 2-A Class”」(21~36)

「2010-05-10T17:30:00 “Yasaka High School Gate”」(36~41)

「2010-05-10T18:30:00 “Yasaka High School Gate”」(41~61)

「2010-05-10T23:45:00 “Hayate’s Room”」(61~78)

「2010-05-11T08:15:00 “Yasaka”」(78~85)

「2010-05-11T08:40:00 “Yasaka High School 2-A Class”」(85~89)

第二話:〝呪言人形〟のロア 後編

「2010-05-11T08:50:00 “Yasaka High School 2-A Class”」(90~95)

「2010-05-11T09:20:00 “Yasaka High School 2-A Class”」(95~97)

「2010-05-11T17:30:00? “Yasaka”」 (98~110)

「2010-05-11T17:30:00? “Hayate’s Room”」(110~126)

「2010-05-11T23:30:00? “Hayate’s Room”」(126~135)

「2010-05-12T08:00:00 “Ichimonji House”」(135~142)

「2010-05-12T09:30:00 “Tsukigakure City”」(143~147)

「2010-05-12T13:20:00 “Yasaka High School 2-A Class”」(148~150)

「2010-05-12T16:15:00 “Yasaka High School Roof”」(150~159)

第三話:〝魔女喰い〟のロア 前編

「2010-05-12T09:30:00 “Tsukigakure City”」(160~178)

「2010-05-12T16:45:00 “Yasaka”」(178~187)

「2010-05-12T17:00:00 “Juninomiya Junior High School”」(187~191)

「2010-05-12T17:10:00 “Juninomiya Junior High School”」(191~203)

「2010-05-12T19:00:00 “Hayate’s Room”」(203~205)

「2010-05-12T23:50:00 “Hayates Room”」(205~211)

「2010-05-13T00:30:00? “Hayate’s Room”」(211~223)

第四話:〝魔女喰い〟のロア 後編

「2010-05-13T05:00:00 “Hayate’s Room”」(224~225)

「2010-05-13T05:25:00 “Yasaka Park”」(225~280)

章後:語り部との会話

「2010-05-13T05:30:00? “Yasaka Park”」(281~284)

章外:百物語達の日常

「2010-05-17T16:10:00 “Yasaka High School Gate” ◇View Side : Site Manager◇」(285~290)

 

結構、癖のある章の構成な気がします。特徴としては、たとえば〝呪言人形〟のロア前編はほとんど15分刻みに別けて書いていますが、「2010-05-11T08:40:00 “Yasaka High School 2-A Class”」の個所は見ての通り急に15分刻みではなくなります。ここはヒロインのひとり一之瀬瑞江が主人公のところに転校してくる場面ですから、物語的に動きがある場面なので変化させているのかなと思いました。でも、そのあとの「2010-05-12T13:20:00 “Yasaka High School 2-A Class”」などを見ると、教室の場面 (時間割の関係) で10分刻みにしているのか、はたまたとくに意図はないのか。

それから盛り上がりどころの「2010-05-13T05:25:00 “Yasaka Park”」の部分は、章のなかではおそらく唯一「25分」という時間が来ています。これもやっぱり特別な場面ということで、他の章との差別化を図っているのでしょうか。

 

101番目(ハンドレッドワン)の百物語 (MF文庫J)

101番目(ハンドレッドワン)の百物語 (MF文庫J)